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Vol.12: 谷中

2010年03月22日 22:21

欧米人の東京の観光ブックを見ても世田谷など載っていない。
外国はあくまで日本が見たいのだ。


谷中

iPhoneなどのスマートフォンをご使用の方はご存知かもしれないが、GPSから自分の位置情報を地図上に足跡を残せる「foursquare」という英語のアプリがある。例えば今自分が上野駅にいるとき、iPhoneからfoursquareアプリを起動すれば「上野駅」が表示され、そこにCheck-inすれば「上野駅」に自分の足跡が残せる、という仕組みだ。そして、例えば上野駅に誰よりも多くCheck-inしている人は、上野駅のMayor(地点の長)の称号が与えられる。また、多くの人がfoursquareを利用してCheck-inすることにより、世界でどの界隈が今熱いのかが分かるようになるのだ。

Image696.jpgかくいう小生もfoursquareユーザーのひとりであり、下町散策の際にはマメにCheck-inしているため、すでに何ヶ所かのMayor(地点の長)となっている。「根津駅」、「三浦坂」、「千駄木駅」、「岡倉天心宅跡」、「富士見坂」、「諏訪神社」、「道灌山公園」。そう、ぐるりと谷中を囲む地点を押さえているのだ。支配欲には無縁の風来坊の小生が、ここまで縄張り意識を掻き立てられるほど魅力的なマチ、それが谷中である。

谷中は台東区内にありながら山手線の内側にある地域であり、下町でありながら海抜でいえばかなりの高台に位置している。山手線で西日暮里から鶯谷に向けて走っている際に右手が崖のようになっていることはお気づきだろうが、その崖の上に存在しているのが谷中界隈と説明した方が端的だろう。江戸初期に今の上野桜木の地域に寛永寺が創立されたことで神田から多くの寺院が移転し、江戸の行楽地として栄えた歴史を持ち、今も谷中墓地には徳川家が墓に眠っている。まもなく桜満開の時期、上野公園の桜よりも谷中霊園の桜をおすすめしておきたい。

谷中台東、墨田、江東をはじめ、東京の下町は戦時中の大空襲によって江戸からの貴重な遺産も焼け野原と化してしまったが、谷中は大規模な空襲を免れることで貴重な歴史遺産を遺すことができ、今も観光客が絶えない。下町ファンの声としては、台東の谷中は下町でありながら隣の文京区の根津や千駄木と協力し合うことで、「脱・下町」のブランディングを強化している、などと揶揄されるが、逆にそれは戦火を免れた下町の遺産を世に伝えるための術である。

また、谷中は古いだけでなく東京芸大と近い場所柄であることからアートとの融合が強い。銭湯をリノベーションしたアートギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」、長屋を改造したカフェ、そして上野の美術館と谷中のアトリエを開放した「アートリンク上野-谷中」が近頃では毎年秋の恒例となっている。歴史の浅い世田谷界隈のインスタントな「ほっこり」を求める女性客で入り乱れる今風のカフェにはどうにも入りにくいという男性には、谷中ボッサ、カヤバコーヒー、Cafe NOMAD、ミルクホールをおすすめしたい。プレーンなテイストの多い所謂「ほっこりカフェ」と違い、谷中のカフェは喫茶店と形容した方が早い。内装も白の壁と木のダークブラウンのコントラストが強く重厚な印象であり、その白の壁もどこかタバコの煙ですすけた色を醸し出している。袴姿の男性が物書きをしていても違和感のないこの空気は、隠れ家を追い求める男性には最高の書斎となってくれることだろう。

谷中そんな喫茶の楽しめる谷中は日暮しの里。飲み屋は少なく、日のあるうちに楽しむのが吉である。山手線からは崖のように一気に高台になっているが、そこから先は不忍通りの谷に向けてのなだらかな下り坂で街が形成されている。そのため日の入りの夕方には太陽が斜面均等に古い家々の瓦を照らす光景は圧巻である。谷中散策の最後に、富士見坂や夕焼けだんだんから日の入りを楽しんでいただきたい。

そんな谷中には外国人バックパッカー向けの安宿があるためか、谷中を歩いているとしょっちゅう外国人旅行客を見かける。散策がてらに欧米人に道を聞かれても、英語での説明が難しいほどに谷中は道が入り組んでいるため、目的地まで連れて行ったこともあった。実際にfoursquareで谷中界隈のスポットにCheck-inした人のリストを見ても外国人が想定外に多い。

谷中日本人がかつての農村を開拓して、インスタントにヨーロピアナイズされた暮らしのスタイルを世田谷に築こうとも、欧米人の東京の観光ブックを見ても世田谷など載っていない。外国人にとってはあくまで日本が見たいのだ。欧米文化に飲み込まれるのではなく、欧米文化を飲み込んだ日本文化の残る街・谷中。アメリカが燃やし尽くせなかったこのマチに、小生は今後もアメリカ生まれのfoursquareを利用してCheck-inし、世界に発信しつづけようと思うのであった。
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